会社が倒産しました

自分が勤務していた会社が倒産してしまい、その後のアレやコレやを頼りない記憶を元に記述してみた、もしかしたら誰かの役に立つかもしれない記録。

突然の倒産

2012年11月初旬、以前から資金繰りが怪しく、いわゆる自転車操業とはこういうものだという見本のような経営状態だった、私が勤務していた零細IT企業がついに倒産してしまった。

社長からその事実を告げられた瞬間は、あまりに予想外な内容だったために思考がまったく働かず、事の重大性がいまいち把握できなかったのだが、時間の経過と共に徐々に大変な事である実感が湧き始めた。なぜなら、それまでも安月給で蓄えがほとんど無い我が家の家計にとって、住宅ローンを抱えて一家5人が暮らすには一瞬たりとも未収入があっては生活がままならないのは火を見るより明らかだからだ。

それでも例えば何らかの形で多少の額でも退職金などが支給されれば当面は凌げるかもしれないが、そういう金があるなら会社の運転資金とするだろうし、どうやら社長は個人の自宅なども抵当に入れてあるようで、もはや完全に打つ手が無くなったゆえの倒産らしい。

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  • 転職の難しさ

    語弊があるかもしれないが、これが20歳台で独身で実家暮らしなら生活に関しても転職に関しても物凄く気が楽なのだろうが、50歳を目前とした零細企業の中間管理職となっては再就職がままならないのは骨身にしみている。と言うのも、実は以前から会社の行く末を案じて、密かに転職活動を行っていたからだ。

    複数のネットの転職サイトを活用し、加えてハローワークも利用して、延べ数で20は下らない企業に履歴書と職務経歴書を送付してきたのだが、その結果は面接すら受けられないという惨憺たるものだった。それは当然と言えば当然だろう。もし逆の立場なら、余程の特別な能力が無い限り、履歴書の年齢を見ただけでダメ出しをするはずである事は想像に難くない。

    このような経験があればこそ、突然の倒産で目の前が真っ暗になった私であった。

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  • ハローワーク

    人生で初めての無職となった私は、倒産したとは言え、何だかんだと残務処理のために継続して出社しつつ、無職を経験した事のある同僚にいろいろ教えてもらい、地元のハローワークへ出向いて諸手続を行ったのだが、学生を卒業してから約25年間、途中で何回かの転職はあったものの継続して会社員を続けてきた私の場合、失業手当が支給される期間は1年1ヶ月となり、その総額は200万円を超える計算となるが、1ヶ月当たりに割ると当然生活できる額ではない。

    余談だが、ハローワークで説明を受けて初めて「再就職手当」なるものが存在する事を知った。これはつまり平たく言えば、早く就職したら、支給されるはずだった失業手当の一部をまとめてもらえるという制度である。

    何れにせよ、とっとと就職しなければならない状況には何ら変わりがない。

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  • 再就職

    と、ここで予想だにしない事態となった。

    私は携わっていなかったのだが、倒産した会社で開発していた某顧客のシステムを完成させるため、その某顧客と大きな取引がある某会社が私を含めて数人を雇用してくれるという話が浮上してきたのだ。正直なところ、賃金や通勤場所などで非常に厳しい条件なのは否めないため、あれやこれやと一応は考えて悩んでみたものの、このまま無職となって一家が路頭に迷う事を考えれば他に選択肢は皆無なので、私はその話を受け入れる事とした。

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  • 再就職手当

    ここで前述した「再就職手当」が関わってくる事となる。

    わずか9日間という短い無職期間を経て、失業手当受給期間を1年以上も残しての再就職なので、単純計算でも100万円を超える額が支給される予定となる。もちろん、就職できました、はいどうぞ、と簡単にくれる訳はない。ハローワークでの話によると、過去に再就職手当をもらった途端に会社を辞める事例があったため、新たに就職した会社が発行する証明書を提出してから約3ヵ月間は様子を窺い、その後も継続して在籍している事実が確認されたら、それでようやく支給されるとの事である。

    当然だが、私は簡単に辞める気など毛頭無いので、そのまま3ヶ月を経過して、無事に約110万円の支給が指定口座に振り込まれた。

    今まで貧乏生活を強いられていた者が突然3桁万円の金を手にすると、無意味にも気が大きくなってしまうのが悲しい性で、小遣いが10万円欲しいと妻に交渉したところ、当然と言えば当然なのだが、瞬時に却下された。それでも何年かぶりにスーツを2着購入したのは正直ちょっと嬉しかった。

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  • 未払賃金立替払制度

    会社が倒産した事で、どうしても諦め難かったのが退職金である。わずか6年間の在籍とはいえ、退職金規程に記載された計算式によると、40万円を超える退職金が支給されていたはずだからだ。ほぼ底辺に属する貧乏一家にとっては非常に大きな額なので、何か補填されるような制度が無いものかとネットで検索してみたところ、倒産などによって未払いとなった賃金などを国が立て替えて支払ってくれる「未払賃金立替払制度」というものがある事を発見した。

    さすがに国の制度なので手続きなどか結構面倒臭く、簡単に言うと、破産管財人もしくは労働基準監督署による会社倒産の事実と未払い賃金の有無の証明書を以って独立行政法人労働者健康福祉機構に請求するとの事。なのでまずは労働基準監督署へ連絡を入れてみた。

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  • 労働基準監督署

    電話にて労基に問い合わせたところ、倒産した会社についての情報と倒産した事実を証明できる物、私が実際に倒産した会社から給料を受け取っていた事を証明できる物など、今現在で用意できる可能な限りの資料を送れとの指示が出た。

    この手の物事がとにかく面倒臭いのは百も承知していたが、背に腹は代えられないので、会計事務所が発行した賃金台帳のコピーや会社閉鎖時に取引先に送信した閉鎖案内FAX原稿のコピーなどを送付した。まぁ、書かれている文面の意味から調べなければならないような、見た事も無い定型の書類に必要事項を記入する訳ではないので、まだマシと言えばマシなのだが。 その約1ヶ月後、必要書類として本人証明のための運転免許証のコピーを送れとの指示があったため、それも発送した。

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  • 管財弁護士

    それから約2ヶ月が経過した頃、管財弁護士から封書が届いた。どうやら倒産した会社の社長が破産手続開始の申立てを行ったらしく、債権者は債務者に直接連絡しないようになどの内容が記載されていた。同時に、管財弁護士から労基へ提出したのと同じ資料を送るようにとの指示が来たため、それを送付した。

    実は未払賃金立替払制度を活用するために必要となる、会社が倒産した事実を認定するための労基への申請は、倒産の翌日から半年以内に行わなければならず、しかし債務者の破産が確定すると、その認定は管財弁護士が行うとの事で、ここでも非常にややこしい仕組みが登場する事となるからだ。

    法律に疎い一般市民は言われるままに従うしかない。

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  • 倒産認定申請

    その後しばらくは、どこからも何の連絡も無かったのだが、前述したように、倒産認定の申請は半年以内に行う必要があり、その時期が近づいてきた時に労基から連絡があった。管財弁護士の話では、もうすぐ社長の破産が確定するらしく、そうすると未払賃金立替払いの管理も弁護士に移るのだが、そのタイミングがちょうど倒産から半年を過ぎるかどうかという辺りらしい。なので取りあえず労基にて申請を行うために一度来いとの事である。

    後日、仕事の都合をつけて労基に赴き、担当者と会って説明を受け、指示通りに申請書に記入したのだが、その間わずか10分程度である。だったらわざわざ仕事を休まずに、書類なんか郵送でもいいじゃねーかよ、まったくこれだからお役所は!!と思ったのは言うまでも無い。

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  • 未払賃金立替請求

    本当に労基がお役所仕事だと思ったのは他にもある。この未払賃金立替払いの管理が弁護士に移ったかどうかの結果は、分かり次第連絡をくれる事になっていたのだが、待てど暮らせど一向に音沙汰が無かったのである。まったくこれだからお役所は!!

    ド素人な私には結果の予測すらできないのは当然で、なので正直ほとんど諦めていたのだが、約3ヶ月後に管財弁護士から電話が入った。その内容は、社長の破産が確定したので、取り引きがあった会社などの債権者は涙を飲んで取り立てを諦めざるを得ないのだが、社員への未払い賃金は立替払制度によって支払われる事と、それを請求するための弁護士による倒産認定書を送付するので、それに必要事項を記入して労働者健康福祉機構に送付しなさいとの事だった。

    しかも、私が独自に算出していた退職金の額が実は間違いで、つまり純粋に基本給を元としていた私の計算額に対し、実際には職能給なども基本給に含まれるとの事で、すると単純計算で120万円を超える事となり、しかし立替制度による支給では8割までとなっているので、支給額は100万円を少し切るとの事である。

    「青天の霹靂」とか「寝耳に水」とか「猫に小判」とかのことわざが頭に浮かんだが、果たしてどれが正しい意味なのか分からなくなるほど気持ちは高揚し、天にも昇る気持ちとは正にこの事を差すのだろうと思った。

    数日後、弁護士から認定書が届き、早速それに記入して労働者健康福祉機構に送付した。ネットで調べたところ、約2週間で振込通知が来たとの記載を見つけたが、期待が外れた時のショックは予想外に大きいので、当てにせず待つ事とした。

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  • 未払賃金振込

    請求書を送付してから約2週間後、労働者健康福祉機構から1枚の目隠し葉書が届いた。開いてみると、○月○日に未払い賃金を指定口座に振り込むとの通知であった。果たして当日、無事に振り込まれた事を確認して安堵した。

    再就職手当が支給された時と同様に、妻に10万円の小遣いを交渉してみたが、前回と同様に瞬時に却下された。仕方が無いので、秘密でバレない程度の数万円を自分の口座に移そうと企てている。家族の生活が第一なのは間違いないが、自分の退職金だから少しくらいいいよね。

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