とんでもない低気圧・高気圧



  今回は天気図に出現するレアな「低気圧」「高気圧」についてのお話です。
  天気図に興味を持ち、こんなマニアックなページをご覧頂いている皆様であれば今さら説明するまでもないことですが、念のために 天気図に出てくる「低気圧」「高気圧」の定義について説明しておくと、周囲よりも相対的に気圧の高い場所が「高気圧」、同じく 相対的に気圧の低い場所が「低気圧」。定義はそれだけで、○○hPa以上が高気圧と言ったような絶対値の定義ありません。

  さて、低気圧と高気圧の定義に絶対値は関係ないうことは、周囲の気圧がとても高い条件下であれば「中心気圧の 非常に高い低気圧」や、その逆に「中心気圧の非常に低い高気圧」が出現してもおかしくないはずです。
  また、真冬になると日本の東海上で「台風並に発達した低気圧」という解説を天気予報でよく耳にしますが、どれくらい中心気圧の 低い低気圧が出現するのか?というのも気になるところです。

  そこで、今回は2009年〜2012年の計4年間の午後6時の天気図上に出現した低気圧・高気圧の中心気圧を調べ、それぞれの中心気圧の 上限と下限の可能性について検証してみることにします。

  なお、今回の検証では「ラジオ用天気図用紙No.2」の余白部分より内側に収まる範囲に出現した低気圧・高気圧のみを対象とし、 @気象通報でアナウンスされたが中心位置が天気図用紙の余白部分より外側にはみ出した低気圧・高気圧、A中心位置が天気図用紙の 余白範囲内に収まるが気象通報の原稿から省略されてしまった低気圧・高気圧、以上の2パターンは調査対象から除外とします。



◆低気圧・高気圧の中心気圧の上限と下限は?

  さて、下の表が2009年〜2012年の4年間の天気図に登場した低気圧・高気圧の中心気圧と出現回数を月別でまとめたものです。 この表をもとに、低気圧・高気圧の中心気圧の上限と下限について考察をしていきたいと思います。


@中心気圧の低い低気圧

  まずは「気圧の低い低気圧」、つまり低気圧の発達の極限についての考察です。なお、ここで言う低気圧に「台風」は含みません。 あくまでも、考察対象は温帯低気圧に限定します。
  低気圧が猛烈に発達する時期と場所と言えば、やはり冬場の千島沖〜アリューシャン近海を思い浮かべる人が多いのではないかと 思いますが、実際に中心気圧が960hPaを下回るようなとてつもない低気圧の出現は冬場に集中しています。逆に5〜9月は960hPa未満の 低気圧は一度も出現していません。
  さて低気圧の中心気圧の下限ですが、過去4年間の出現回数を調べる限り、950hPa台の低気圧は18回の出現があり、年に数回は お目にかかれる計算になりますが、さすがに940hPa台となると非常に稀で年に1回出現するかどうかというレア度になります。
  940hPa台でも温帯低気圧としてはとんでもない発達度合と言えるのですが、上には上がいます。過去4年間出現した低気圧の中で、 唯一930hPa台の領域に入ったのが2011年1月17日にアリューシャン沖で発達のピークを迎えた低気圧で、その記録はなんと934hPa!
  天気予報でよく「台風並みに発達した低気圧」なんどという表現が登場しますが、台風ですら930hPa台に到達することは年に数回 というレベルですから、温帯低気圧として934hPaは本当にとてつもない発達度合と言えるでしょう。ちなみに、この日の天気図を見ると 大陸には1044hPaの高気圧がありますので、両者の気圧差は110hPaにも達しています…。
  なお、最も気圧の下がった温帯低気圧の世界記録としては910hPa台が存在しており、どこまでも上には上があることを思い知らされます。


[画像] 934hPaの低気圧が出現した2011年1月17日18時の天気図
    台風と異なり、中心気圧が930hPa台に入っても等圧線を省略することができないので
    これほど発達した低気圧は天気図を書く側にとっても鬼門であるw



A中心気圧の高い低気圧

  さて、中心気圧の高い低気圧という話題になると、余程の天気図マニアでもない限り、そんな記録について考えたことのある人はいないでしょう。 現象としてはあまりにも地味過ぎますし、どんなに中心気圧の高い低気圧が現れたとことで災害や大きな崩れには結びつかないからです。 当然、気圧の高い低気圧については、公式記録も存在していません。
  4年間の記録を追っていくと、1020hPa台の低気圧はかなりの数が出現していて計98回。年間約25回は現れる計算なので、1020hPa台の低気圧は まだまだレアと呼べるほどの領域ではないようです。それでは1030hPa台は?この大台までくると、出現回数が急激に減り、4年間でわずか7回という 結果になりました。なお、流石に1040hPa台の低気圧となると出現回数はゼロとなり、最も中心気圧の高い低気圧は2009年1月1日に中国大陸奥地(モンゴル)で登場した 1036hPaでした。1036hPaとなると、最も気圧が低かった低気圧と比べると102hPaも高く、もはや高気圧と見間違えるほどの中心気圧ですね…。
  ちなみに、中心気圧の高い低気圧が出現しやすい時期と場所は冬季の中国大陸周辺が中心です。当然ですが、周囲の気圧のベースが高い条件下でないと 気圧の高い低気圧は発生し得ません。シベリア高気圧が発達する冬季の中国大陸が、気圧の高い低気圧を生じさせる条件に合致するというわけです。


[画像] 1036hPaの低気圧が出現した2009年1月1日18時の天気図
    中国大陸を覆うシベリア高気圧内に低圧部が生じ、1036hPaの低気圧として解析された



B中心気圧の高い高気圧

  次に中心気圧の高い高気圧について。これは、少し天気の知識がある方なら想像できるかもしれませんが、気圧の高い高気圧の代表格と言えば 冬の「シベリア高気圧」が思い浮かぶと思います。日本付近で発生する高気圧には、シベリア高気圧以外に梅雨時の「オホーツク海高気圧」や 夏の主役となる「太平洋高気圧」などが知られていますが、中心気圧の高さに於いては寒気の塊であるシベリア高気圧には敵いません。
  実際に4年間の記録を追っていくと、中心気圧が1050hPa以上となる高気圧は12〜3月の4ヵ月間にしか登場していませんでした。そして、 1050hPa台の高気圧は4年間で計26回登場しており、出現頻度はどうやら一冬に6〜7回程度と言えそうですが、1060hPa台の高気圧となると4年間で 4回しか登場しておらず急速にレア度が高まります。
  しかし、実は冬場にシベリア高気圧が1060hPa台まで発達すること自体はそれほど珍しいことではありません。問題は、高気圧が 発達する位置があまりにも中国大陸の奥地過ぎて、天気図用紙の範囲からはみ出してしまうことがとても多いのです。そのため、天気図用紙の 範囲内に1060hPa台の高気圧が登場するのはかなりレアなことだが、地球規模で見れば1060hPa程度の高気圧は頻繁に出現している、というのが正確な 考察になると思います。
  ちなみに、4年間で天気図用紙上に現れた最も気圧の高い高気圧は2011年1月27日出現の1064hPaですが、世界記録としては1965年にシベリアで 1080hPa台の高気圧が観測されたことが知られています。


[画像] 1064hPaの高気圧が出現した2011年1月27日18時の天気図
    シベリア高気圧が発達し中心気圧は1064hPaに達しているが、位置は余白ギリギリ…
    冬場の高気圧は天気図用紙範囲の更に奥地で発達することが多い



C中心気圧の低い高気圧

  最後に中心気圧の低い高気圧について。これについては「気圧の高い低気圧」と同様、周囲の気圧場に依存される記録であり、 その記録に気象学上何か深い意味のあるとは言えないため、公式な世界記録などは存在していません。
  過去に現れた気圧の低い高気圧の発生位置と時期を調べていくと、どうやら夏場(特に6〜7月)の中国大陸付近に登場しやすい と言えるようです。夏場になると陸地は暖められ、大陸は巨大な低圧部と化しますので、その中に小さな高圧部が生じると 「中心気圧の低い高気圧」として解析されるようです。
  そして、過去4年間で最も気圧の低い高気圧は2012年6月12日などに登場した1000hPaでした。1010hPaから2hPa低くなるごとに出現頻度は急速に 下がり、1004hPaは37回、1002hPaは10回、1000hPaは4回という結果でした。1000hPaというと最も気圧の高かった低気圧より36hPaも低い高気圧が 存在していたことになりますね。
  ちなみに、今回は2009年から2012年を調査対象期間としましたが、2013年7月3日にはなんと中心気圧996hPaという高気圧が登場しました!  また、1998年の7月にも998hPaの高気圧の出現を確認しています。なので、1000hPaを下回る高気圧は極めてレアであるが、10〜20年に一度くらい の超低確率で出現するかもしれない、と言うことができそうです。


[画像] 996hPaの高気圧が出現した2013年7月3日18時の天気図
    中国大陸の広範囲に生じた巨大な低圧部の中に996hPaの高気圧が解析されている