2001年台風11号  8月20日〜22日
〜上陸後も迷走減速、伝説のスロー台風〜







●はじめに●
  平成13年8月21日に紀伊半島に上陸した台風11号は、進路の定まらない夏特有の迷走台風、 自転車並の速度での本州縦断などと言われ、改めて台風予報の難しさを教えられた台風であると当時話題になった。
  その台風11号を自宅での観測結果とともに自分なりに検証してみようと思う。
尚、台風11号を検証するに当たって、一部熊谷地方気象台および気象庁の観測データを参考にさせて頂いた。



●台風11号発生から消滅まで●
@マリアナ諸島近海で発生
  マリアナ諸島の北にあった熱帯低気圧が8月14日午後9時に台風11号となった。

A超大型台風となり西へ
  台風11号は当初は北北東に進路をとり小笠原沖に過ぎ去るという予想だったが、 実際には西寄りに進み次第に発達した。発生から2日後の16日には超大型の台風にまで発達し、 さらに日本へ接近する可能性が出てきた。翌17日には台風は最盛期を迎え、 中心気圧955hPa最大風速40m/sの超大型で強い勢力となった。

Bゆっくり日本へ接近
  18日以降台風11号はさらに日本に接近した。勢力はしばらく960〜965hPaを保持した。 19日には時速15〜20km/hのゆっくりした速度で南大東島に接近した。

C進路を北西から北東へ
  20日になると台風11号は九州に接近し、西日本で風雨が強まり始めた。 その一方で、進路が北西から深夜には北北東へ変わった。 午後10時には室戸岬で最大瞬間風速39m/sが観測され台風は四国のすぐ南までやってきた。

D迷走・進路変更連続の末、紀伊半島へ上陸
  21日になり台風11号はすぐに西日本の沿岸に上陸と思われていたが、 この後が今回の台風で最も特徴的だった「大迷走物語」の始まりだった。
  21日朝、台風は予想よりも南寄りの進路をとり始め、気象庁は「西日本へは上陸せず東日本へ上陸する恐れが高い」 と予報を訂正した。ところが、台風が室戸岬の南南東170kmの海上に達した午前9時頃から急に進路が北北東〜北に変わった。 このため、当初暴風域に入る恐れがないとしていた四国地方に急遽接近し始め、 気象庁は慌てて四国地方に暴風警報を発令する情況となった。 室戸岬でも51m/sの最大瞬間風速が観測された。
  午後になってもしばらく北寄りの進路に変化はなく、夕方には紀伊水道近くまで北上した。 ところが午後5時頃から再び進路が北東へ変わり、午後7時過ぎに紀伊半島串本町(潮岬) 付近に上陸した。上陸時の勢力は中心気圧970hPa、最大風速30m/s、暴風半径は130kmだった (旧定義では中型で並みの強さとなる)。
  一方、速度は時速20km/hと上陸時の速度としてはかなり遅いと言える。

E上陸後さらに減速
  台風11号は紀伊半島上陸後、紀伊半島の東岸に沿うように北東へ進んだ。 しかし、速度は上陸後上がるどころかさらに減速し、一時は時速10km/hと 小学生のマラソン以下のペースにまで落ち込んだ。このため、長時間台風の影響下にあった紀伊半島では記録的な大雨となり、 奈良県の大台ケ原では総雨量が930_に達するほどだった。
  上陸から5時間が経過した22日の午前0時になっても台風はまだ紀伊半島尾鷲市の西部にあった。 上陸後ほとんど移動してないと言っても良いほどだ。この頃気象庁はまた台風情報を訂正し 「台風は関東に今朝最も接近するとしていたが、関東への接近は早くても夕方になる」とした。

F本州南岸を沿うように移動
  台風は22日朝になってようやく伊勢湾を通過し、依然として時速20km/h程度の速度で本州の南岸を沿うように 北東〜東北東へ進んだ。10時には御前崎付近を通過した。
  一方これは結果論になるが、関東の大部分で風雨が最も強かったのは台風が最接近した午後ではなく、 台風がまだ静岡県内にあった午前10時前後のことであった。
  台風の中心位置の話しに戻るが、正午頃台風11号は伊豆半島土肥町付近へ再上陸した。 この頃台風の勢力が弱まったのに伴い、暴風域が消滅した。 その後13時には熱海市、14時に藤沢市、15時に東京湾を通過し、 16時には千葉市へ再上陸した。この時の勢力は中心気圧980hPa、最大風速23m/sと台風としては だいぶ衰弱していた。
  また、先ほども触れたが、この頃には関東地方は台風のど真ん中にいるというのに 北部の一部を除いて雨も風もほとんどないという信じられない状況になっていた。
  千葉市に再上陸した頃になると台風はようやく速度を30〜40km/hに早めて進路を今度は北寄りに変えて、 さらに本州の東岸を沿うようにして東北地方に向かった。 17時に土浦付近、18時に日立市付近、19時にいわき市付近に達し、22時頃には仙台湾まで達した。

G北海道に再上陸して温帯低気圧に
  23日朝にかけて台風11号は三陸沿岸を時速50km/hまで速度を速めて北上し、 23日午前8時前に北海道東部(十勝地方)に再上陸した。 そのわずか1時間後の午前9時に釧路市の西南西70kmで温帯低気圧に変わった。



●台風11号の特徴とその検証●
@記録的な(?)迷走と低速度
  上陸前の台風11号の迷走とノロノロぶりは先ほど触れたとおりであるが、 なぜこんなことになったのであろうか。
  その原因について気象庁は次のように説明している。 まず、日本の東海上にあった高気圧に動きを阻まれていたこと。 そして、日本の上空に偏西風がほとんど吹いていなかったため、 さらに台風の動きは遅く複雑なものになった。

A本州海岸を沿うように北上
  今回の台風は「上陸」したとは言っても、その経路を振り返ってみると本州の内陸を通過したわけでは なく、ほとんど沿岸部に沿って北上している。
  この原因については気象庁からの発表はなかったが、饒村 曜・著『続・台風物語』という著書を もとに推定をしてみた。
  『続・台風物語』には今回の台風に酷似した動きをした台風の記録が掲載されている。 昭和58年の台風5号である。それによると、台風は衰弱した場合摩擦の大きい 山岳地帯を越えることができず、沿岸に沿うように進むことがあるという。 今回の台風も、長時間陸上にあったために台風の衰弱が著しかったということで条件 はほぼ一致している。
さらに台風を動かす偏西風がなかったとなると、 昭和58年の台風5号と同じように台風が中部山脈を越えることができずに南岸 に沿うように進んだと考えることができるのではないかと思う。

B中心付近の静寂
  台風11号は首都圏直撃の恐れがあったため、東京大暴風雨を警戒して報道陣やマスコミも相当力を 入れた報道をしていた。ところが、実際に東京で最も風雨が強かったのは台風最接近の6時間も前の ことで、台風が最接近した時刻には雨も風もほとんどない状態だった。
 気象庁は当初から「台風の雨雲は中心の東〜北側に集中しているため、 台風通過後の天気の回復は早い」としていたが、これほど早く風雨のピークが やってくることまでは想定していなかったと思われる。
  実際、レーダーアメダスを見ても、東京に台風が最接近した頃には 雨雲はほとんど東北地方に進んでいた。
  この原因を考えるのは難しい。6時間も台風の目に入っていたとするのにはあまりにも無理がある。 この原因を考える上でも、Aの時と同じく『続・台風物語』に掲載されていた 昭和58年台風5号の記事が一番ヒントになるのではないかと思う。
  実は、台風11号は東京に最接近した頃の天気図 を見ると日本海に顕著な副低気圧が発生している。
  一見、中心があたかも分裂したようになっている。本当にそんなことがあるのかと 思うかもしれないが、『続・台風物語』によると地形の影響によって日本海に別の低気圧が発生し、 まるで台風が分裂したようになることも有り得るという。
  昭和58年の台風5号が実際にそうであったらしい。 さらに、このような現象が起こる場合、中心付近は弱風域であるとも書かれている。 今回の台風11号でも同じようなことが起きていた可能性があるのだ。



●自宅観測結果●
  自宅で台風観測体制に入っていたのは19日正午から23日正午までで、 その間は3時間おきの気圧観測を行い、さらに21日6時から23日0時までは1時間おきの 気圧と降水量を計測した。

  気圧は19日21時の1018.5hPaを境に徐々に下がり始め22日の15時の986.8hPaまでほぼ低下の 一途をたどった。最低気圧を観測した時間は台風の最接近時にほぼ一致する。 ただし、今回の台風では非常に近くを中心が通過したのにもかかわらず、 中心が通過する際の急速な気圧低下は見られず、ほぼ一様に気圧が低下した。 これは台風がゆっくり接近したことと、徐々に衰弱しながら接近していたことが原因と思われる。

  雨は台風通過前日の21日10時頃から弱い霧雨が降り出し、13時からは時間雨量1mm以上の降水が 観測された。台風の雨は強弱を繰り返すのが特徴だが、今回の台風でもその特徴がよく現れた。 21日15時、22時、22日4時、9時と、ほぼ6時間おきに4回の強雨のピークがあり、 そのピークに挟まれた時間帯では雨が止んでいたこともあった。

  一方、台風の中心付近が通過した22日15時頃には雨はすっかり弱まり、 台風の中心付近の激しい雨は全くなかった。

  風についても、21日夕方から南東風がやや強まり始めたが、 ピークは22日の朝で台風最接近からは半日もずれていた。 風については自宅では観測を行っていないが、熊谷地方気象台では 最大瞬間風速14.5m/sを22日朝に観測している。台風が最接近した15時頃はほとんど無風状態だった。 いずれにせよ、今回の台風で暴風と言えるような風は吹いていない。






●参考資料●
項目熊谷地方気象台での観測結果自宅での観測結果
総雨量151.5mm155.0mm
最大瞬間風速14.5m/s設備不足のため観測不可能
最大瞬間風速情報収集未完了設備不足のため観測不可能
最低海面気圧985.4hPa(22日15時14分)986.8hPa(22日15時00分頃)
最大時間降水量情報収集未完了29mm(22日2時〜3時)


●一時間毎観測表●
月日時海面気圧
(hPa)
時間雨量
(mm)
総雨量
(mm)
台風の位置中心気圧
(hPa)
最大風速
(m/s)
8月21日12時1005.3潮岬の南南西140km96530
8月21日13時1004.5室戸岬の南東110km96530
8月21日14時1003.1潮岬の南西100km96530
8月21日15時1002.51012潮岬の西南西90km96530
8月21日16時1000.020 96530
8月21日17時999.226潮岬の西南西60km96530
8月21日18時998.827潮岬の西南西40km97030
8月21日19時998.230潮岬の西30km97030
8月21日20時998.033潮岬の北西30km97030
8月21日21時997.337尾鷲市の南西60km97030
8月21日22時995.645 97030
8月21日23時995.552尾鷲市の南南西50km97030
8月22日0時994.152 97030
8月22日1時欠測52三重県尾鷲市付近97030
8月22日2時欠測52三重県尾鷲市付近97030
8月22日3時992.457尾鷲市の東30km97530
8月22日4時992.42986 97530
8月22日5時欠測88津市の南東40km97530
8月22日6時991.290豊橋市の南西50km97530
8月22日7時990.097愛知県豊橋市付近98030
8月22日8時989.418115静岡県浜松市付近98030
8月22日9時988.523138御前崎の西南西30km98030
8月22日10時988.1146静岡県御前崎付近98030
8月22日11時988.0147駿河湾98030
8月22日12時987.1149静岡県土肥町付近98025
8月22日13時欠測151静岡県熱海市付近98025
8月22日14時欠測153神奈川県藤沢市付近98023
8月22日15時986.8155東京23区付近(東京湾)98023
8月22日16時987.0155千葉県柏市付近98023
8月22日17時987.5155茨城県土浦市付近98523
8月22日18時988.0155茨城県日立市付近98523
8月22日19時989.0155福島県いわき市付近98523
8月22日20時990.7155いわき市付近20km98523
8月22日21時991.1155仙台市の南南東70km98523
8月22日22時992.0155仙台市の南東40km98520
8月22日23時992.5155